Ripy[リピー]|音楽アーティストを楽しむリスナーマガジン

Ripy[リピー]|音楽アーティスト アイドルを楽しむリスナーマガジン

宇多田ヒカル 「俺の彼女」の意味は?アルバム「Fantôme」解説

2016年11月10日

宇多田ヒカル

今年のアルバム大賞を選ぶなら宇多田ヒカルの「Fantôme」はどうしても外せない。彼女が約8年ぶりにリリースしたアルバムであり、売上も絶好調であり初週で25万枚以上、累計売上42万枚を突破、4週連続でオリコンアルバムランキング1位を記録。更に各国のiTunesチャートでランクインするなど、宇多田ヒカルここに完全復活!と世に知らしめた。人間活動と題して約5年もの間、音楽活動をほぼ休止していたにも関わらずこの人気は良い意味で異常だしありえない。

そしてアルバムに散りばめられた楽曲達は決して大衆受けする楽曲ばかりではない、むしろマイノリティな楽曲も多く収録されている。にも関わらずこれだけ売れているのは宇多田ヒカルブランドがまだある証拠だ。NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」の主題歌「花束を君に」のヒットも関連していると思われるが、普段あまり音楽を聴かないような層にも愛され、更に根っからの音楽好きや同業者からの支持も厚い。こんな女性シンガーは宇多田ヒカルだけだろう。唯一無二の存在である。おかえりヒッキー。

スポンサーリンク

成熟されたアダルトなアルバム

今回のアルバム「Fantôme」は前作「HEART STATION」から8年も経っていることもある。内容的にはひと味もふた味も違った宇多田ヒカルが見れるアルバムだ。宇多田ヒカルが人間活動を経て得たもの、失ったものが散りばめられている。「Fantôme」とはフランス語で「幻」や「気配」といった意味がある。このアルバムに収録されている楽曲「道」や「花束を君に」「真夏の通り雨」などはすべて母親に宛てた楽曲でもある。母の死という悲しみ、結婚や出産という喜び、そうしたまさに人間としての生きる死ぬを見てきた人間活動を経た彼女が作り上げた音楽がここにある。

01.道

サントリー天然水のCMでも使われているこの曲、1曲目ということもあり宇多田ヒカルらしい楽曲となっている。この楽曲で宇多田ヒカルは母親のことを歌っている。母のことを歌った楽曲がアルバムには何曲かあるが、曲を聴いて感じることは万人に万通りだ。この楽曲を聴いて大切な誰かを想ったり、愛するあの人を思い出したり、そんなひとそれぞれの「道」を描いている。

02.俺の彼女

タイトルだけでどんな曲か気になった人もいるんじゃないだろうか。「俺の彼女」。この楽曲は宇多田ヒカルの新境地と言ってもいいだろう。ジャズ風の楽曲で、曲展開がひとつの物語のように徐々に盛り上がって、そして沈んでいく。今回のアルバム曲はこの曲も含め、低音、ベース音が心地良い曲ばかりだ。そして音数も少なく、無駄を省いた洗練さがあり聴きやすい。

「俺」と「彼女」、両者を歌い分けている。日本語詩を大事にした今回のアルバムでは、歌い方もとても丁寧だ。日本語の言葉ひとつひとつの発音の仕方がとても丁寧。

俺が必要としている理想に近い彼女、必要としてくれている彼女を演じる私。いつまでこの2人を演じるの?本当の意味でそこに愛はない。

カラダよりずっと奥に招きたい 招きたい
カラダよりもっと奥に触りたい 触りたい

Je veux inviter quelqu'un a entrer
Quelqu'un a trouver ma verite
Je veux inviter quelqu'un a toucher
L'eternite,l'eternite

フランス語である。前半部分の日本語詩をフランス語で繰り返している。この楽曲を作ってくれただけでこのアルバムに価値があるように思う素晴らしい曲。

03.花束を君に

NHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」の主題歌でもあった。そのおかげで再び宇多田ヒカルの歌声がお茶の間に浸透した。

楽曲としては本当に素晴らしく、こんな優しい歌を描いた宇多田ヒカルは今まであっただろうかと言うくらいに優しく包み込むような、母親になった宇多田ヒカルだからこそ書けた曲なんじゃないだろうか。この楽曲も母親に宛てた楽曲だが、聴く人から見れば恋人、家族、友人、別れた誰か、失った人、大切な何か、すべての人に向けた楽曲である。

宇多田ヒカルの歌詞は文学的なところがある。それは彼女が古今東西の文学を愛しているところからも来ているだろう。

「普段からメイクしない君が薄化粧した朝、」

まるで小説の始まりの一節のような出だしに感じないだろうか。このワンフレーズだけで想像心を掻き立てられる。

04.二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎

EMIガールズ2人による楽曲だ。椎名林檎と公式にコラボレーションするのはこれが初のこと。ミュージックビデオでも2人は役柄を演じており、まさに夢の共演が実現した瞬間でもある。昔から2人を見て、この2人が好きだった人にとってはたまらないだろう。

歌詞を見れば、家族を持って忙しく逞しく日常に奮闘する母親が、つかの間のバカンスに出かけるような設定。まさに宇多田ヒカルと椎名林檎の今の現状を歌ったような曲でもある。あの頃の2人はイケイケで輝いていた、そんな頃から大分月日が経ち、母親になって落ち着いた。でもたまには2時間くらいあの頃のように、刺激的な何かを求めてもいんじゃない?そんな曲。

MVではまるでレズビアンのような2人の絡み合いを見ることもできる。

05.人魚

心地良いメロディーに乗せられて、まるで人魚のように海を漂っているような、もしくは海の中で眠りにつくような、そんな感覚に陥るとても綺麗な曲。音数の多い凝ったアレンジよりも、こうしたミニマルなアレンジのほうが耳に残りやすいし聴きやすい。全体的にアルバム曲が落ち着いた雰囲気を持った曲が多く、アルバムテーマの「幻」に沿っている。

06.ともだち with 小袋成彬

こちらも他アーティストとのコラボレーション。小袋成彬は若手シンガーでありプロデューサーでもある。この「ともだち」という楽曲、好きになってしまった異性の人への届かない想い、その人には愛する人がいて、でも恋愛感情を抱いてしまってもうとめられない、友達として接していくこともできない、そんな想いを描いている、とふつうの人なら捉えることができる。

しかし宇多田ヒカル本人によれば「同性愛」を描いた楽曲だという。

Twitterではこんなやり取りも。

あるリスナーが「異性愛者の友達に恋をするゲイの歌ってちょっとステレオタイプすぎない?」とツイート。それに対して宇多田ヒカルが「なぜ私がノンケだと思ったの?」とリプライ。

これが同性愛の歌だとわかれば、歌詞もそういうふうに見ることができるだろう。もちろん同性愛を肯定した歌だ。

07.真夏の通り雨

女性としてまだ見られたい、女として生きていたい。そういった気持ちを残している30代40代くらいの女性目線からの歌に聴こえてくる。あの頃の熱く火照った気持ちを忘れたくない、何もかも捨てるような気持ちであなたに恋をしたあの頃を忘れたくない。そんな歌。

だがこれも宇多田ヒカル本人によれば母親を歌った楽曲とのこと。今回のアルバムは宇多田ヒカル本人にとっては、母親の死というものが切っても切り離せない作品になっている。

聴く人によって捉え方は違う。この曲が母親のことを書いた曲だとしても、聴く人によっては見える風景は千差万別だ。

最終部分の日本語フレーズの繰り返しが「SAKURAドロップス」を沸騰させる。

08.荒野の狼

宇多田ヒカルには文学作品をモチーフにした楽曲や、フレーズが多く登場する。この楽曲もそのひとつ。ヘルマン・ヘッセの長編小説「荒野のおおかみ」からきている。小説としては、平凡な日常を送っている平凡な青年がその生活に疑問を抱き、その生活から逃げ出したいけれど逃げれない人格形成を描いた作品である。

曲としては刺々しい歌詞になっている。どこか今の生活に不安や不満を感じていて、そこから脱したい、逃げたしたい、でも今の生活は変えることができない、と考えている人へ伝わる曲だろう。

09.忘却 featuring KOHH

ラッパーのKOHH(コウ)とコラボレーションした楽曲である。アルバムの中で1番異彩を放っている曲であり、宇多田ヒカルがこんな曲を?と驚かせてくれる曲でもある。今までの宇多田ヒカルの作品でここまで他人の歌声を入れた曲は初めてであり、彼女にとっての「挑戦」でもある。

歌詞もこのアルバムの曲の中で1番重たく沈んだ言葉が並べられている。KOHHというラッパーとともに作った歌詞であり、KOHHの自分自身の痛々しい感情を曝け出す良さが浮き出ている。それを宇多田ヒカルの今にも消えてしまいそうな儚い歌声でつなげる。この曲の宇多田ヒカルの歌声が1番「幻」という言葉が似合う。

10.人生最高の日

前2曲とは打って変わって最高に明るい曲だ。ポジティブな思考しかないこのアルバムの華的存在。もしこの曲がなかったら少し暗すぎるアルバムになっていたかもしれないが、この曲があることによって光射し込むアルバムとなっている。

「シェイクスピアだって驚きの展開」「一寸先が闇なら 二寸先は明るい未来」なんて詩は宇多田節が効いてる。

11.桜流し

この楽曲がこのアルバムで1番古い楽曲である。宇多田ヒカルが人間活動中に2012年に配信リリースされた曲だ。曲としては東日本大震災のことを歌っているし、ヱヴァンゲリヲンの主題歌としても書かれている。

非常に悲しくも荒々しくもある要素を含んだ楽曲だ。最後を飾るのに相応しい一品。単品で聴いていたときより、アルバムを通して聴くとまた違った景色が見れるだろう。

開いたばかりの花が散るのを
「今年も早いね」と
残念そうに見ていたあなたは
とてもきれいだった

この曲の出だしも短編小説の一節のような始まり方である。宇多田ヒカルにはぜひいつか何かしらの形で本を書いてほしいところだ。

アルバム「Fantôme」

そう、このアルバムを通して聴くと短編小説でも読んでいるかのように情景が脳に浮かんできたりする。人間的にも女性としても成熟した感じが曲から受け取れ、久しぶりなこともあり新しい宇多田ヒカルを見ているよう。アレンジも凝ったようなものではなく、余計なものを削ぎ落として、まるで綺麗なドレス一枚だけを羽織ったような仕上がり。薄化粧だけれど綺麗。全体的に落ち着いた雰囲気を持っていて、何度もこのアルバムを語る上で欠かせないワードである「母親」の腕の中にいるような、そんな安心感があるアルバムでもあり、それだけじゃなく大人の女性としての魅力も含んでいる大胆で刺激的なアルバムでもある。「幻」を見ているかのような、だけどそこには血が通っている人間味ある楽曲たちが並んだ素晴らしい作品だ。

Fantôme / 宇多田ヒカル


関連記事
宇多田ヒカルが出産や母の死で変わった?歌詞にも変化が
「花束を君に」の歌詞から見る宇多田ヒカルの天才っぷり
なぜ椎名林檎が東京五輪に?Perfume 中田ヤスタカ MIKIKO 真鍋大度も?

 

こんな記事もあるよ!

ページの上に戻る